<その3> ペットと感染症 ~パスツレラ菌~
(正式名: Pasteurella multocida)
国内の総世帯数の約3割が犬または猫を飼っているという報告(平成21年度、日本ペットフード協会調べ)から、ペットは、私たちにとって身近な存在になっています。その一方で、ペットからうつる感染症というものもあります。今回は、その中でパスツレラという菌を紹介します。
以下の症例は、呼吸器症状(咳と血痰)を訴えて内科外来を受診した方です。
血液が含まれた赤い喀痰が検査室へ提出されました。
なお悪性細胞の存在は否定されました。
喀痰を直接染色した写真です。わかりずらくて恐縮ですが、赤く染まった短く小さい菌がたくさんあります。
ヒツジの血液が入っている寒天培地に発育したパスツレラ菌です。直径2mm程度の半透明、湿潤性のあるコロニーで、生臭いにおいがするのが特徴です。
ちなみにこの方は糖尿病の基礎疾患をもっていて、家の中で猫を飼っていたとのことでした。
パスツレラ症は、パスツレラという細菌によって起こる感染症をいいますが、この菌は、本来、猫や犬、鳥類などが持っていて、国の調査によると、犬の75%、猫の97%が口の中に、20%が猫の爪の中に存在しています。これらの動物に対してほとんど無症状ですが、パスツレラ症は、菌を持っている犬や猫などがヒトを咬んだりひっかいたりすることで起こります。通常、健康なヒトは、傷口が赤くはれて炎症を起こすだけで経過することが多いのですが、傷が深かったり、あるいは、高齢者や小さい子供のように感染に対し抵抗力が弱い方、糖尿病や悪性腫瘍などの基礎疾患を持っている方は、肺炎、関節炎、腎炎、髄膜炎などを発症することがありますので注意が必要です。
気をつけるポイントとしては、次の3点があげられます。
① 犬や猫に咬まれたりひっかかれたりしないように注意する。
② ペットの口にキスをしたり、口移しでエサをあげない。
③ ペットに触ったあとは手洗いを。
愛くるしい表情や仕草をするペットに愛情を注ぐことはとても大事ですが、濃厚な接触を避けて、適度なスキンシップを心がける必要があるかもしれませんね。
YICNet 佐藤