<その2> A群β溶血性レンサ球菌
(正式名:Streptococcus pyogenes)
過去に本ブログで幾度か掲載していますが、今回はこの菌について紹介します。
名前がよくわからないと思いますので、まずは名前の由来から。
A群・・・ランスフィールド分類のA群
レンサ球菌は、菌体の表面(細胞壁という)を構成する部分に基づいた分類法、すなわち、ランスフィールド(Lancefield)の分類のA~H群およびK~V群(IとJは欠番)に分類されます。この中でヒトへ病気を起こす能力を持ちつつ高頻度に分離されるのはA~G群で、この菌はその中のA群に属しています。
β(ベータ)溶血・・ヒツジ血液寒天培地上の溶血環の性状
この菌をヒツジ血液寒天培地に発育させると、コロニーの周りに透明感の強い溶血環ができます。これがβ溶血と呼ばれるものです。他には、緑色環のα溶血や溶血のみられないγ(ガンマ)溶血があり、培地上に発育したコロニーを見分ける重要なポイントになります。しかし、最近では典型的なβ溶血環の見られない非溶血タイプも報告されるようになったので、検査する側としては、非溶血タイプの存在も念頭に置いて、菌を見逃さないよう注意しながら検査しなければなりません。
まとめると、
ランスフィールド分類の
A群+ヒツジ血液寒天培地上の
β溶血+
レンサ球菌=
「A群β溶血レンサ球菌」となります。また、略して
「ベータ溶連菌」と言ったりもします。
本症例は、当院の耳鼻科外来を受診した患者さんの扁桃腺から検出されたものです。
培養したコロニーをグラム染色すると、上の写真のように紫色に染まる円形~楕円形としてみることができます。よくみると一部は少し連鎖状になっています。
これはヒツジ血液寒天培地に発育したβ溶連菌です。大きさは直径1mm程度で、光沢がある灰色のコロニーとして見ることができます。コロニーの周囲には透明感の強い溶血環があり、これがβ溶血の所見となります。
通常は不透明の培地も、このように奥に見えるテーブルの木目がはっきりと透けて見えるほど分かります。これは、β溶連菌が産生する毒素によってヒツジの赤血球が壊される(溶血)ことによって起こります。
コロニーの拡大写真です。
このコロニーをβ溶連菌の迅速キットを使って確認検査してみました。左がコロニーを検査したもので、右が対象です。左は“+”と表示され陽性、右は“-”で陰性の結果でした。
A群β溶血性レンサ球菌は、本来、健康なヒトのノドや皮膚などに存在している細菌ですが、体力が落ちたりすると感染が起こり、最も一般的な症状は急性咽頭炎扁桃炎ですが、その他として、皮膚、軟部組織、敗血症などの全身感染症を引き起こすこともあります。
また、この菌は患者との接触を介してうつるため、ヒトとヒトとの接触の機会が増加するときに起こりやすく、家庭内や学校などの集団感染もみられます。感染性は急性期にもっとも強く、その後徐々に弱まります。急性期の感染率については兄弟での間が最も高くて25%との報告のようです。学校での咽頭培養を用いた研究によると、健康で保菌している人が15 ~30%あるとされていますが、健康で保菌している人からの感染はまれのようです。(2003年の報告)
したがって、溶連菌の感染者がいる場合には、感染を広げないよう注意して、みなさん、手洗いを頑張りましょうね。
YICNet 佐藤